イタリアでスローフード運動が生まれて20周年を迎えた。 ファーストフード全盛の食のあり方に警鐘を鳴らしてきた運動だが、世界に広まるにつれ、さらに大きな問題が出てきて新たな活動テーマが必要になってきている。
国際本部のカルロペトリーニ会長は次なる活動方針として「環境に優しい生産活動」と「公正な取引」を挙げている。環境に負荷をかけ、自然の法則に従わない生産は、持続不可能である。遺伝子組み換え作物に対しては、将来の生態系にどのような影響があるのか予測が難しいため、反対の立場をとっている。 また、発展途上国では価格決定権を大手の商社に握られ、貧困から抜け出せないままだ。小さな生産者も、公正な対価を得られるような配慮が必要である。
日本の場合はどうか。先日報道されたように、日本の食料自給率は39%に低下し、目標の45%達成は困難視されている。先進諸国でも最下位の自給率は、日本の将来にとって大問題である。さらに一方で穀物類がバイオ燃料に回されたことで、穀物餌料がひっ迫し畜産農家に打撃を与えている。
中国やインドなどの人口大国が生産国から消費国に変身し、水産資源をはじめ、世界の食料が日本に十分に供給されない不安が現実のものとなってきた。 世界の貿易交渉では自由化を迫られ、日本の生産農家は窮地に立たされている。
日本のスローフード運動も、この喫緊の問題を直視しなければならない。一般の生活者にもっと情報を提供し、啓発し、自給率の改善をはじめ、将来の食料危機に備えるライフスタイルに変えるよう、説得していく必要がある。
スローフード山形では、先日の政策会議で今後の重点活動を次の三つに絞った。 @農業を取り入れた暮らし Aマチとムラの親せきづきあい B米を中心とした食生活 である。
@は、「国民皆農化計画」とも称され、援農、農作業体験、家庭菜園に始まり、耕作放棄地を復活させる農園計画まである。 Aは、生産地の農作物をダイレクトに都市の消費者に届ける交流の橋渡しを、スローフード団体が促進するものだ。8月にはSF横浜の少年団を親子で川西町に招いて農業体験をしてもらった。 Bは早寝早起き、三食ご飯(日本酒の晩酌つき)の実践を会員から始めようと申し合わせた。
スローフード山形は県民に情報を提供し、啓発していくために、大人向けの食育活動として「スローフード出前講座」を今秋から始める予定だ。 「日本の食を守る」というテーマで、要望のある地域に出掛け、会員がそれぞれの専門分野で話をさせてもらう企画だ。謝礼は不要、すべてボランティア活動として行う。
自給率は「自救率」ともいわれるように、県民一人一人が日本の食について危機感を持ち、自らの意思でライフスタイルを変えていくことが大切だ。 「自分の食いぶちは自分で作る」くらいの覚悟が必要だろう。 スローフード山形は、スローだが、着実に役に立てるよう努力していく。 (山形新聞/2007年9月26日/スローフード山形理事長 小山博通) |