渇ォ縄海塩研究所 

小渡氏の第一印象はまさに「海の仙人」という言葉がぴったりの人だった。

都会、あるいは人生で痛んだ心を休ませに北海道から沖縄、また海外からもクチコミ情報でこの沖縄海塩研究所を訪れる。
 研究所に立ち寄るというよりは、小渡氏の生き方に惹かれ、塩づくりを手伝いながら寝食を共にし、海の仙人修行に入るのだ。

丁度、この日は沖縄の那覇と静岡から住み込んでいる青年と北海道から来た女性と話をする機会があった。彼等たちも目まぐるしい日常生活の中で自分自身を失いかけ、ここ研究所にたどり着いたらしい。
最初は初めての島生活で戸惑っていたこともあったらしいが、この塩を作る手伝いをしているうちに人間として大切な何かを小渡さんに教えられたと嬉しそうに静かに語ってくれた。

小渡氏ご自身もその昔体調不良で自然食を学んでいたせいもあって、実に気持ちの優しい方だった。

年間たくさんの訪問者がある。
しかしながら、ここは病院ではないので誰でも受け入れるというわけではない。
以前親御さんからいわゆる不登校のお子さんを預かったことがあったが、こちらが話しかけても口を閉ざすいっぽうで何も語らず非常に困ったとのことだった。食事を目の前にいただきますも言えない躾のできてないお子さんが多く、子供を邪魔あつかいする今の日本の母親がいかにとんでもない方向に変わってきたかと話をしてくれた。

人生の道草の時間で、何かを見つける。でも、それがすぐに答えが出なくても確かに道草の時間は活きて来る時期が必ずあるということを小渡氏との会話の中で私も見つけたような気がした。


家庭における親子関係のあり方までが間違った方向へ突き進んでいると思います。一家団欒の減少、会話、共食の減少により、躾、文化の伝承が行えなくなっています。孤食の問題、食生活のみだれが切れる子、切れる親の原因ともいわれています。食事のバランス、特に塩が重要であるのです。食を正しい方向に導くことで人間関係(家族関係)をスムーズに進めることができるのではないでしょうか。

沖縄では昔から、命を何よりも大切にする心が根付いていました。また、人に対しての優しさ、親切さが小さいころから身に付いていました。今、それを子供たちに伝えていくために我々大人たちgしなければならないことがあります。生きていく上で最も重要な食の大切さ、物作りの大切さを伝えていく。取り分け食育は大切です。 現在、欧米では空前の日本食ブームであるのに、当の日本の食物自給率は40%を切っています。沖縄では世界でも長寿の島として知られています。病気や怪我、伝染病を克服するために医食同源が暮らしの中に根付いているのです。旬のものを食べるという、いたってシンプルなこと、ここに人間の治癒に関した大きな鍵があるのです。

人間と塩との間には食のみならず、神事にも塩はつきものです。
昔から沖縄には、神々を崇める行事が数多くあり、都会では少しづつ合理化されているものの、粟国島では今も昔のまま50ともいわれる行事が行われています。旧暦の大晦日には、「マースヤー」という行事があり、この「塩売り」の根源は貴重な塩を売ってまわり、無病息災、来福を祈願します。去りゆく年に感謝、来る年がすばらしい年になるよう万を願の折を込めます。海塩が祈りの基に使用され、粟国島の1年は海塩ではじまり、海塩で終わるのです。

同じような風習は沖縄の他の離島でもあります。しかし「粟国の塩」のような海水のみ原料とした昔ながらの製法をもとに、ミネラル分がバランスよく馴染み工夫された塩はほとんどありません。

塩、それは海からの贈り物。いのちは海からという言葉は私の塩作りの原点です。空気、水と同じように塩は人間が生きていく中で必要不可欠なもの。そのためにはバランスの行き届いた塩、人間の体内の濃度にマッチした塩を摂ることが重要なのです。

人間本来の心の豊かさを取り戻し、人々が自然と地球と強調、調和して生きる。そんな意識が芽生えるようになればいいと思い、自然を基に長年の経験で培った、技術と知識による本物を伝えることができる社会になればいいと思います。  ( 渇ォ縄海塩研究所 小渡 幸信氏 より)

 
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