1.都市農業の現状
・杉並区の農地面積は、55.22ha(平成
18 年度4月現在)で、区全体の面積に占める割合は 1.62%で、東京ドーム12 個分に相当する。 ・ 農地の多くは、杉並区の北部(西武新宿線)と南部(京王井の頭線)に集中しており、中央線沿線には少ない。また、北部は練馬区に接しており、南部は世田谷区に接しているが、練馬区・世田谷区ともに、杉並区より農業が盛んである。 ・杉並区の農家数は192
戸(農地台帳/平成 18 年4月現在 ・昭和60 年現在の農地面積を 100 とした場合、平成 19 年現在は 53.7 となり、年々減少する傾向にある。その背景としては、農地としての土地利用より(杉並区はそこそこ地価が高いこともあり)、マンション経営や駐車場などの利用の方が収益性が高いこと、また相続(税)問題なども考えられる。駐車料金が1台で月23万円の収益をもたらすのに比べ、農作物の場合、年2回程度の収穫では、収益面では対抗できない。このような状況から、農業だけで生活を成り立たせるのは難しく、現在杉並区内における専業農家は23戸程度で、農家のほとんどが、農業の他業種との兼業である。 ・農業の大変さも挙げられる。農作業の98%くらいが"草むしり"である。また、冬は霜が降りたり、夏は暑さのため、農作業する時間も限られる。
【補足説明】 ○杉並区の場合、農家1戸あたり農地面積も全体の6
割が 1000 平米未満であり、一般の人がイメージする(北海道のような・・)農地・農家のイメージと異なる。 ○区内では、果樹栽培、花卉栽培の農家もある。 (岡村さんより) ・昔はキャベツやブロッコリーなどが中心であったが、最近では、年間を通して生産・販売ができるようにとの考えから、トマト、えだまめ、だいこん、キャベツ、ばれいしょ、ブロッコリー、さつまいもなど、他品種栽培・生産が増加。農家1戸平均10
品目以上を栽培・生産している。 ・収穫量は、だいこんが一番多く133 トン、次いでキャベツ 100 トン、ばれいしょ 71 トン、トマト 50トン、えだまめ32
トンがベスト5である(平成 17 年度版「わたしのまちの農業」)。この他、観賞用の花や植木、果樹も生産されている。 ・生産物の多くは庭先販売・直販である。以前は、学校給食への提供やスーパーなどにも出荷していたが、現在はしていない。また、JA東京中央すぎなみグリーンセンター直売所「ファームショップ
あぐりん」でも、毎週火曜日と土曜日(午後2時)に直売している。その他、区主催の即売会、農協主催、共催の即売会、農業関係団体の即売会などが、年に数回開かれている。ただし、庭先販売・直販中心であることに違いはない。 (三上さんより) ・農業従事者の多くは60
歳代以上が多く、(体力的にも)収穫量が限られるという面もある。"身の丈に合った"農業が杉並区の農業(農家)の特徴といえる。次世代といっても4050
歳代であるが、熱心な方が多い。・農地と「生産緑地」との違い生産緑地とは、生産緑地法に基づき農家ごとの申請により、杉並区が都市計画決定し指定したもの。一定の面積以上で、長期にわたり(最低30
年間)営農していくことが義務づけられ、固定資産税の課税評価が通常の宅地並農地よりも低く抑えられる。区農地の7割ほどが指定を受けており、都市計画上、オープンスペースの確保や緑地の保全に効果を挙げている。 ・歴史的に振り返れば・・戦後の日本では、地主から農地を借り上げ、実際に農作業に従事している人たち(小作農)が農業から収益を上げることが出来、労働意欲を向上させるための政策が採られた面もある。そのような背景から、農地の売買は法律で制限されている。・都市部に農地があることは非効率的であり、宅地を増やそう・・という(国の施策)時代もあったが、実際には、その通りに事は運ばず、現在の杉並区のように、一部に農地が残ることとなった。そういった時代(国の施策)の変遷なども、現在の都市農業に影響していることが考えられる。※「農業委員会」:選挙による委員12
名と区長の選任による委員2名(農協推薦、区議会推薦)の計14 名が活動している。役割は、農家からの相談処理、適正な農地の管理・保全、区や農協が行う農業振興事業への支援などで、任期は3年。
○「体験型農園」と「区民農園」 ・体験型農園農園主の年間耕作計画に基づく指導を受けながら、利用者が農作物の育成・収穫を行うもの。区では、体験型農園を開設・運営する農家へ施設整備費や運営費の一部助成を行っている。 現在1園、100
区画3 が開設されている。 荻窪駅から南に下がったところ、住所は成田西3−18、名称「ファーム荻窪」という。 区の事業というより、"農業の一形態"と捉えるもので、農園主が作った栽培計画に基づき農業に従事するので失敗が少なく、農業経験のない人でも安心して野菜作りが行える。 ・区民農園区民が野菜や花などの栽培を通して、土と自然にふれあうことを目的に、農地所有者から区が無償で農地を借り受け、区民農園として開設している。平成19
年4月現在、12 農園で計約 1,800 区画を提供している。北は井草地域、南は成田、高井戸、浜田山など、北部と南部に集中している。体験型農園とは違い、農業指導はないので上手に育たないこともある。しかし、自分の判断で好きな作物を育てることができる。利用期間は2年間(利用料金は年間3,000
円)、次回の募集は平成 20 年の 12 月頃、実際の利用開始は21 年の3月頃の予定。水道の利用、農具の貸与もあり。 2.農家が残る環境づくりの課題や悩み、サポートについて・農業の生産性のみならず、"都市型災害への防波堤"としての農地の役割を見直し、防災的観点からも、農地(スペース)を残していくことの重要性が考えられる。日常、農地があることの具体的な効果は、目に見えにくいもがあるが、区としては、農地があることの効用を区民に広く理解を求めていく方針である。また、風が通り抜けたり、緑が癒しとなるなど、農地の多面的な効用も訴求していく。 ・JAとしても、農地を残すことを重要課題として位置づけている。杉並区でも、これ以上農地が増えることは考えられないので、減らさないことを責務と考えている。 ・農地が空く時期(栽培・生産しない時期)があるので、農家と区民が話し合って、どのような利用が可能かを決める。"ただの土"より緑がある方が、区民にとっても望ましい・・などの発想もあり得る。事前にJAに相談してもらえば農家への橋渡しをすることができる。農家も反対はしないので、区民が積極的に農地に関わるべきである。 <Q&Aコーナーより> Q:販売所が少なく、杉並の農業(農作物)と触れ合う機会も少ない。 A:農家と一般区民の触れあいが少ないのは農家にとっても問題だと考えられる。JAとしては、グループでの農家訪問を農家に取り次ぐ体制をとっているので、利用されたい。農家と区民とのコミュニケーションが活溌になれば、双方に良い影響が出るはずだ。※農家を訪問する方へ・・農地を"自然"と考えるべきではない。作物を栽培・生産する現場として、農家の人が年間を通して手を入れていることを忘れないよう、理解願いたい。 Q:次代の農業を考えるなら、子どもたちに、もっと農業に触れる機会を設け、農業に関心を持たせるべきではないか。 A:中学校で体験学習で農業実習などを行っている。大人の方が農業に触れる機会が少ないのが問題かもしれない。区では農業に関心があり、かつボランティア活動に意欲を持つ方を募集し東京都が実施するボランティア養成講座の受講修了者を農業ボランティアとして認定し区内の農家で活動してもらう仕組みを作っている。現在、区には70名程度のボランティアがいるが受け入れ先が少ない(10戸程度)のが課題。杉並区の農家の場合、それほど人手を必要としていないこと、またボランティアの意欲・技量に対して農家から疑問の声が出ることもある。区のボランティア制度のあり方も、見直しを迫られている。 (すぎなみ大人塾/スローフードな地域づくり〜地産地食/「杉並区における都市農業の現状 東京中央農業協同組合杉並グリーンセンター長 岡村伸一さん/ 杉並区役所産業経済課都市農業課/三上和彦さん 2007年6月21日(木) PDF資料より)
|