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小林さんとの待ち合わせの時間までにあと1時間30分。荷物をホテルに置き、急いで駅前の一関観光協会を尋ねると、残念ながら民族博物館も美術館もすでに閉館時間。ぜひ明日尋ねてくださいね～と丁寧にいつくかのパンフレットを手渡される。そういえば、スローフード岩手の茂木さんから一ノ関に行くのならば世嬉の一酒造を必ず尋ねてくださいとの伝言を思い出した。

世嬉の一酒造に向かうにつれて降っていた雨がいつの間にか止み、持っていた折りたたみ傘をカバンに仕舞う。
初めての街　一関。
古い教会や藁ぶき屋根の家屋がいくつか目に入る。その町並みは、東京とは違って、規則正しい碁盤の目のような広い道路が山に向かってまっすぐに伸び、実に解りやすい。丁度、下校時の自転車に乗った学生と行き交う以外に通りには人がほとんど歩いていなかった。
到着した世嬉の一酒造の博物館は残念ながら時間のためにすでに閉館していたが、その見事な酒蔵をシャッターに納めることができただけでも大満足。

世嬉の一酒造の裏路地から河原につづく道に芭蕉最北の宿「二夜庵跡」の碑が出迎えてくれた。
月日は百代の過客にしていきかふ年も又旅人也。
天下の俳詣をまっすぐ進み風雅の誠をきわめるため俳聖・松尾芭蕉は弟子・曽良を伴い「奥の細道」行脚の旅に江戸を出立した。元禄2年3月27日。（元禄2年3月27日　1689年新暦5月16日）である春日部～日光～黒羽～須賀川～仙台～松島～石巻を経て、45日後にようやく一ノ関に入り、平泉視察のために二泊した宿がこの金森邸である。その後、日本海側へと旅立ったが芭蕉が宿泊したことから「二夜庵」と呼ばれることになった。
この年芭蕉46歳、曽良41歳。

記念碑の左手に続く雨上がりの土手を登りきると、そこには一面に夕焼けに染まった空が広がっていた。
夕焼けの雲の切れ間から幾重にも光が射し込み美しい空の芸術を眺めることができた。こんな空に出会ったのは、何十年ぶりだろう。
雲の切れ間から差し込んだ陽の光線をヨーロッパでは天使のはしごと呼ぶ。雲が風に乗って動き出すと太陽に重なった雲が虹色に大きく輝き、映画のワンシーンのようにそれはそれは引き込まれそうな夕空に言葉も出ないほど感動。

さて、街の商店街に向かうと、「新鮮館」という看板が目に飛び込んできた。
元大型スーパーDを利用した建物をこんな風に活用しているのは斬新なアイデアだとすっかり感心。地元の低農薬の農産物や郷土料理の惣菜、焼きたてのパン、手作りのお菓子、ジャム、地域の高齢者の方々が作った手芸品、お花を販売。他には同じフロアーにいつくかのNPOのスペース、障害者が作った作品を発表していたコーナー、ハローワーク、シルバー向きのパソコンスクール等、地域の情報発信基地のような役割をしているようだった。学生から主婦、高齢者まで幅広い層に利用されている客層に羨ましさも感じられた。

こんな温かいまちづくりをしているところで生活しているスローフード一関の小林さんやスタッフの皆様がどんな風にスローフードの支部を立ち上げたのか～ますますお会いしてみたくなった。　
時計を見ると約束の時間までにあと5分。急いでホテルに戻った。

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